私は現時点で3つのメディアに不定期で連載コーナーがありますので、思いついたネタはどこかには掲載されてきました。
ですが今回、色々な理由・事情があったようで、全てにボツとなりました……せっかく書いてしまったので★以下掲載します。。
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副業がブームから定着に移行しようとしています。地方に拠点を置く会社が「副業歓迎」として人材採用を始めたりすることが珍しいことではなくなってきました。
顧問業のブーム
副業ブームの少し前には、顧問ブームというのがありました。顧問を斡旋・紹介する会社が出現し始め、まずは大企業で大量に出てくる定年退職者もしくは予備軍をターゲットにして、顧問として登録してもらいます。一定の年齢以上のビジネスマンであれば、バリっとした白髪頭のデキるナイスミドル風の人が出ているインターネット広告を見たことがあるかと思います。(だから本稿はWEBメディアで却下だったのでしょうか??)
そして受け入れ側のクライアント候補の会社に対して、「営業開拓に向けて、コネクションがある人がいますよ」とか「●●のテーマについて経験豊富な人材がいますよ」など営業をかけ、マッチングして対価を得ます。形式としてはクライアントから紹介した顧問に直接報酬を支払うのではなく、顧問紹介会社が特定のテーマの解決について業務委託として受託して業務委託料を受け取り、実働した個人の顧問に報酬を支払うことが多いようです。クライアントにおいては個人を雇用しているのではなくあくまでも課題解決を発注しているので、実働した顧問が気に入らなければ「チェンジ」することも可能です。1つのテーマが終わったら引き続き別のテーマを受託して、実働の顧問はそのテーマの得意な人に変わって継続したりもします。
そうしたサービスが始まった当初は、それまで弁護士や会計士や社労士など有資格者と、コンサルティング会社で長く活躍した後に独立した人くらいしか「顧問」に就くイメージがなく、それが普通のサラリーマンにも機会が開かれたということで、登録希望者が殺到したそうです。実際に顧問斡旋会社の人が「応募が多すぎて、とても面接しきれない」と嘆いていたのを当時直接聞いたこともありました。
それから10年近く経ち、転職エージェントの新規事業であったり独立して創業したりして、顧問紹介サービスを行う会社は増える一方です。それでも各社登録者数が増えて撤退や潰れたりする会社も発生しない様子を見ると、個人としては「今までの知見を活かして副収入が得られる」、クライアント企業としては「お手軽に高い知見を得られる」「コンサルティング会社を雇うよりも安い」として、実績は進んでいることが推測されます。
夢を膨らませて顧問登録!
ところが大枠ではなく、個別の事情を具体的に見ていくと、少し違った様子もうかがえます。
当初大企業のOBOGや現役社員が中心でしたが、やがて中小企業のOBOGや仕事の機会を拡げたい独立事業者や零細事業者も登録されるようになって幅が広くなっていったようですが、当然ながら全員が全員バラ色になっているはずもありません。
まず根本的に、登録者数とクライアント数を見た時に、圧倒的に前者が多いです。つまり登録して「これで良い会社の顧問になれたら、報酬はもらえるしちょっと自慢できるし、最高だな」と期待に胸を膨らませて家路についたものの、その後全く連絡がない人がたくさんいます。
人気者は特定の経験者のみ。そして使い捨て
最もニーズが強いのが「販路開拓」、つまり直接的なコネクションを持った人を探しているクライアントが多いようなのですが、該当する人は限られています。そして仮に縁あってマッチングしたとしても、自分のコネクションを一通り紹介したらそこで終了ですので、長続きはしません。
「実務もなんでもやります」とアピールしたところで、クライアント企業からすると、実作業をしてもらう場合には現役世代の派遣社員や若手の社員にやってもらう方が扱いやすいということがあります。デジタル領域など高度な内容についても、中小企業でも専門会社に会社対会社として委託する方がアフターフォローなどを考えるとやりやすいと判断されます。
比較的顧問が取り組みやすそうな、人事制度の構築や再設計など管理系の一時的なテーマについても、クライアントからすると自社しかやったことがない人材に「我々の会社の事情はこうで……」と説明しても、柔軟に対応できるのかどうか心配です。唯一、同業他社出身者であれば話は早いのかと思っても、なかなか数が少ないのでマッチングしません。
また、「全国どこへでも行きます!」とアピールしても、交通費も出ないことが多いので、地方拠点にはなかなか行けません。
そうして登録したものの開店休業状態になっていることに、ある時気付きます。顧問仲介会社に「良い案件ないですか?」と問い合わせたところで、けんもほろろです。
大企業経験者であれはそれまで純粋な自分の市場価値というものをあまり考えたことがなかったこともあり、顧問をやってみようという想いに至らなければ感じなくて済んだ一抹の寂しさを覚えてしまいます。
「高いカネ払ってるんだから」「そんなにもらってないよ」が生む悲劇
ただ、ここまでですとよくある定年後や近くなってきた人の転職事情と似たようなところがあるかもしれません。しかしそれだけでは悲劇(?)は終わりません。特殊な事情が絡んできて、また別のほろ苦い展開があります。
顧問仲介会社は、当然ながら対価を取らないとビジネスが成立しません。ただ、会社によって違いはありますが、その取り分に驚いたことがあります。クライアント企業が顧問仲介会社に支払うのは委託する事案が始まったら毎月25万円だとした場合に、実働する個人の顧問に渡るのはわずか5万円という会社もあります。
この差が、不幸を生み出します。
つまり、クライアント企業は本人に「月に数回しか関わらないのに毎月25万円も払っているんだから」という期待値を抱きますが、本人は「月5万円ならまあ、月に数回、手を動かさないくらいで妥当なのかな」というスタンスで臨みます。
もちろん課題やテーマの掘り起こしや、人選やそもそも人集めという点で顧問仲介会社の付加価値は高いですが、それによって生まれる対価のギャップがミスコミュニケーションの大きな要因になります。
大企業ならば別ですが、中小企業、しかも某かの経営上の課題を抱えて困っている会社にとって月に25万円や50万円というのは見逃せない費用です。一方で、それを受け取っている目の前の顧問は月5万円や10万円なので、「お小遣い稼ぎにはとてもいい。続けられたらいいな」くらいの感覚のこともあります。プロジェクトが始まってそこまで時間が経つ前に、「あの人のやっていることとうちが払っているお金って、見合っていますか?」というクライアント社内で疑問の声が出始めます。顧問個人にしてみれば、過剰なプレッシャーを受け始めます。
「解約できないのか…」
さらにはクライアント企業も中小企業によっては契約書をそこまで精査しない(疑ってかからない)まま「とにかく始めよう」と見切り発車していることもあります。そうすると「あの顧問料、高い。やめよう」と顧問仲介会社に連絡しても、「いやー、契約上、1年は続けることになっています。その前に中止となると違約金を推し払うことになります。そしたら別の人を探すか、別の課題設定しませんか?」と、支払いは継続させられます。それがまたフラストレーションのもとになったりして、より顧問個人への「圧」は高まります。オーナー社長が君臨している会社でオーナー社長に不快感を持たれたりすると、容赦なく圧は言葉となってぶつかってきます。
都市部を食い荒らしたら地方へ進出。リモート対応により加速
こうしたトラブルが、リモートが普及したことによって地方企業にも波及していっています。
当初は「リモートで対応できるから問題ない」として発注側も受注側も納得して始まったものの、不信感が芽生えてくると「だいたい、顔も見せないで素っ気ない対応しやがって! 言いっぱなしだけで手も動かさないくせに」と不満が大きくなります。
顧問個人としても言い分はあります。月5万円では地方まで行っていたら交通費に消えてしまいますし、時間もかかるために本業がそのまま続いていればそこまで時間も割けません。正確に言えば、月5万円、10万円のためにもっともらっている本業に支障が出るリスクを負えません。
さりとて金額の多寡はあっても報酬をもらっていることには変わりはありませんので、そんな反論はしにくいです。
過去から現在までの会社生活の環境が平和であるほど、怒りやプレッシャーの直撃は心にこたえます。顧問を目指そうという人材ですので、若い頃にはあったかもしれませんが、歳をとってからは怒り等々の直撃は減ってきたこともあります。品行方正な環境で育ってきている人も多いので、限界まで耐え続けて、問題が起こらないように頑張り続けます。「こんな痛い思いまでして、そもそも何のためにやってるんだ?」という疑問がたまに頭をよぎっても、気づかないふりをします。
仲介会社にとっては1人の個人顧問が潰れたとしても、他の成り手希望者は山ほどいて増え続けているために、そこまで丁寧な対応はしないのが実態です。ですので今のポジションを失いたくなければ、踏ん張るのみです。
クライアント企業だって満足しているわけでもありません。しかし途中解約をしようとも契約書を盾にして却下されるか、あるいは「ではどうせお金払うのですから、他の人材をあてがいます。ちょっと待っててください。それまでは今の●●さんで継続して下さい」としてお茶を濁されるのがオチです。
次なる獲物を探すノウハウも
恐らくこうした小さなミスマッチの経験が積み重なっているからか、仲介会社にもノウハウが貯まってきているようです。まだプロジェクトが始まったばかりで、疑問の声が出始める前に、似たようなテーマで困っていそうな地元の会社を聞き出します。デジタル領域の話題を出せば、いまだにホームページやECへの対応が遅れている(けれども事業としては地場のネットワークにうまく入っているために問題なく運営してきた)会社は無数にあります。
改めて「社長を紹介してください」とまで言うかどうかは担当者の力量にもよりますが、やや悪質なケースでは、会社名だけ聞いておいて後日勝手に「~社の社長様から紹介を受けまして、**のテーマでのご提案があります。社長はいらっしゃいますか?」という電話をしたりもします。
都市部の会社においては通用しないやり方ですが、地方の中小企業のコミュニティでは会社の窓口はオーナー社長自身が務めていることが多く、信用をベースにして早い意思決定のもとにやり取りが進むことを巧みに利用した「紹介」のやり方です。
まだまだこれからの市場
労働市場における人材不足が緩和されることは今後ありませんので、働き方の多様性に沿ったニーズは増大し続けます。特にそもそも人口が少ない地方企業において人手不足の問題は深刻です。ですので、そのニーズを埋めるサービスは絶対的に必要です。だから顧問市場は伸びているのでしょう。
一方でそうした事情にうまくハマりこみ、大企業出身者の育ちの良さと地方企業の人の良さを過剰に利用して儲けている顧問仲介会社もありますので、顧問になろうとしている個人や利用しようとしている地方の中小企業においては、十分に情報収集することをお勧めします。
著者自身もいくつかの会社様と顧問契約を結んでいますが、全て直接受注しており、いつでもクライアント企業から申し出てくだされば契約解除できる内容で書面を結んでいます。いつでも仕事を失うリスクはありますが、対価についても捉え方のズレはなくフェアな状態でやっておりますので、不当なストレスは受けたことはありません。
クライアント企業や顧問個人にとって、十分に気を付けて行って欲しいです。
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